· 課題の所在

(1)二つの課題(新たな中国という課題/中国ヘの新たな理解という課題)

現在、激動期にある世界の一つの原動力は中国であり、多くの関心が集まっています。そのような中で議論の対象になるのは、米中間の覇権交代や地政学上における中国の位置付けといった問題だけではなく、技術革新に基づくライフスタイルや価値観の創出といった「新たな時代」における主導者の一人に中国がなり得るのかという問題も含まれています。新たな変化を迎えた中国を理解するためには既存の中国学の蓄積を結集する必要があると同時に、研究対象である中国の変容に対応した新たな中国学を確立しなければなりませんが、いずれについても十分に成し遂げられているとは言い難い状況にあります。

(2)アジア地域における中国理解のための連携

中国の台頭が世界から注目されている一方で、中国経済が失速して現在の予測よりも世界的に影響力をもたない可能性もあります。だが、結果がどうであれ、中国の隣国である日本、その周辺にあるアジア諸国は、他の地域と比較して中国の影響を受けやすく、中国理解に対する強い要請があります。事実、アジア諸国における中国研究は飛躍的な進展を見せています。これは、中国の影響が国際政治や地域秩序といった側面だけでなく、技術革新に関連付けられる社会生活にまで及んでいるためです。それだけに、アジアにおける中国研究の成果を共有し、研究者同士が連携することが求められています。

(3)日本の中国理解の学知の活用と発展

中国理解について、日本は世界でも有数の中国研究の蓄積があります。だが、日本における中国研究の知的資源は分野、組織ごとに寸断され、その成果の発信も不十分な状況にあります。すでに現代中国研究処点や科学技術振興機構などがこの課題に取り組み、また日本学術会路 も間題提起をおこなっているが、依然として根本的な解決には至っていません。他方、技術革新や社会生活の変化を含む新たな時代に対応した新しい中国研究のアイディアやビジョンを提示するプラットフォームが不足しているという問題もあります。上述の(1)(2)で示した課題に取り組むためにも、日本の中国研究の蓄積を活用するとともに、それを発展させていくことが求められています。